花降一分銀
重力に愛された、
江戸のミステイク。
小銭か、羊羹か。
ペリーも困惑。
世界中のコインが「丸」なのに、なぜ日本だけ「四角」なのか。
それは「丸く抜くより、羊羹みたいに切ったほうが端材が出なくてお得だから」という、エコを通り越したドケチ精神(合理性)の賜物です。
ペリー提督も日記に書いたかもしれません。
「日本人の几帳面さは異常だ。小銭の角(カド)で指が切れそうだ」と。
この長方形の銀塊は、財布に入れるには痛すぎますが、愛でるには最高のキャンバスなのです。
幕末のドタバタと
やけくそな乱造
時は安政。ハリスとの条約交渉で「日本の銀貨は品位が高いから、ドルの3倍の価値がある!」と言い張った結果、海外へ金が流出。
慌てた幕府は「質を落として大量に作れ!」と号令を出しました。
結果、現場はブラック企業も真っ青のデスマーチ。
職人たちは寝不足でハンマーを振るい、検品係は半分寝ていたことでしょう。
この一分銀に見られる粗さは、当時の職人の「もう家に帰りたい」という心の叫びそのものなのです。
ガチャで言うところの
「SSR確定演出」
手彫りの極印(ハンコ)が摩耗して作り直すたびに、文字の形が変わる。
これを高尚に「手変わり」と呼びますが、現代風に言えば「運営によるサイレント修正」みたいなものです。
「玉座」「跳ね分」「入分」……。
コレクターたちは、肉眼では見えない0.1ミリの違いに数万円を払います。
はたから見れば狂気ですが、本人たちは「歴史の解像度を上げている」と信じているのでそっとしておきましょう。
逆さま? いえ、
「降ってくる」のです。
裏面の桜が逆さまに刻印されたエラーコイン、通称「逆桜」。
しかし、我々はこの無粋な名前を認めません。
これはミスではなく、「花降(はなふり)」という高度な演出なのです。
想像してください。
あなたは桜の木の下に寝転がっている。
空を見上げると、桜の花が自分に向かって落ちてくる。
そう、上から降ってくる桜を見上げれば、花は逆さまに見えるはず!
職人は二日酔いで手元が狂ったのではありません。
VR(バーチャル・リアリティ)的な没入感を150年前に先取りした、アバンギャルドなアーティストだったのです。(……たぶん)
わさびも擦れそうな
鋭利な側面
側面のギザギザ「やすり目」を見てください。
これは銀を削り取られないための防犯対策ですが、あまりに見事な仕事ぶり。
おそらく、この銀貨でお刺身のわさびを擦れば、最高にクリーミーに仕上がることでしょう。
(※試さないでください。文化財保護法とか衛生面とか、いろいろ怒られます)
磨くな!絶対にだ!
黒ずみは「味」だ。
もし手に入れても、ピカピカに磨いてはいけません。
古銭界において「磨き」は重罪。価値が1/10になります。
この薄汚れた黒ずみこそが「銀錆(ぎんさび)」という名の勲章。
「汚い」のではありません。「景色がいい」のです。
そう自分に言い聞かせて、黒ずんだ銀塊をニヤニヤ眺めるのが、正しい変態のあり方です。
空から降る桜を
キャッチせよ。
※おことわり※
本サイトの解説には、製作者の「過剰な妄想」と「独自の解釈」が多分に含まれています。
「花降一分銀」という名称はカッコいいので勝手に呼び始めたものであり、学術的には「安政一分銀 逆桜」等が正解です。
職人がアバンギャルドな芸術家だった証拠はどこにもありませんし、わさびを擦ると銀貨もわさびもダメになります。
歴史的記述の裏取りは、ちゃんとした博物館で行ってください。